地震とアスペルガー

大人になって診断が確定したAS当事者の復興の記録

高校生向けの放射線教育の現場をお伝えするよ。

おはようございます正月早々子守で忙しいASDです。

 

昨年は高校の授業を見学する貴重な機会がありました。

それも放射線に関する教育だったので、どなたにも分かるような内容ですから、より多くの人と情報共有して、いじめ防止になればとブログに書くことにしました。

以下その授業のレポートです。

 

公立高校の理数科クラス向けに全国を回っている専門家がいらっしゃいました。

そのお話を伺う機会があったので、いま高校生たちはどんな風に放射線の知識を学んでいるのかお伝えしたいと思います。

 

福島第一の事故で放出された放射性物質は北西の風で拡散し、風評被害やいじめに繋がる今でも多くの問題をはらんでいます。

正しい放射線についての知識を学んで、間違った認識を払拭していくための活動のようです。

 

除染の話では「地面を削りとった土をどこに持っていくのか? 」といった今後考えなければならない問題も提起されました。

そして2016年夏に福島を訪れた時の街の様子を撮影した写真を見せていただいたのですが、立入禁止の富岡町に入れないようにするバリケードや誰もいないけれど動いている信号など考えさせられる写真でした。

 

まず最初の質問です。

線量計(シンチレーション方式)「はかるくん」で自然放射線の量を測りました。

学内の理科室に集まった生徒たちに線量計を一台ずつ貸して、目の前の放射線量を測定します。

電源オンして静置して1分ほどで自然放射線の量が表示されます。

0.04〜0.05μSv/h(毎時マイクロシーベルト)といった値が表示されます。

同じ教室でもばらつきがあり、値は0ではありません。

ここで高校生たちは普段暮らしている自分の周りに放射線がたえず存在していることを確認しました。

この機械はセンサーに放射線が入ってくるとカウントされる仕様で、ブザー音でも確認できるすぐれものでした。

そして教室にある自然放射線を0.05μS/hと仮定すると、一日は24時間なので、0.05×24で一日に浴びる自然放射線の量は1.2μS/日で、年間だと1.2×365で約438μS/年(0.438mS/年)という計算になりますね。

 

その後「放射線を出しているものは何か?」といった身の回りにある放射線の話になります。

宇宙からも自然放射線は降り注いでおり、太陽からのものが約9割ですが、地面からの放射線もあります。それは何でしょうか?というクイズが出されました。

線量ごとに色分けされた日本地図が表示されます。

ヒントは地面です。

その時点では高校生からはなかなか正解は出ません。

そこで講師がある岩石を見せます。

造岩鉱物の花崗岩です。

すると高校生は墓石(御影石)だと分かりました!

そう花崗岩の地層から放たれる自然放射線もあるんですね。

日本地質学会の資料にそのようなデータが有ります。

 地球化学図で自然放射線量(放射線バックグラウンド)が分かるという解説

※<崗岩が多い地域では、自然放射線量が高くなりますが、個人で購入出来るレベルのガイガーカウンターでは放射線の種類の区別はつかないので、やれ線量が異常だとかホットスポットだとかネタになっていますのでお気を付け下さい。

 

個人で買えるレベルのガイガーカウンターの例


エステー 家庭用放射線測定器

 

次に出てきた機械はベータちゃんです。

一分間に放射性物質が出す放射線量を図ります。

 これでサンプルで持参された花崗岩を測ってみるとアラームが鳴りました。

 

食品にも自然放射線は含まれており、カリウム40による内部被曝量は0.17mV/年です。

これは土中の肥料から食物に入って人間に蓄積されるものです。

バナナに含まれるカリウム40との違いの説明は一切なかったです。

バナナ等価線量 - Wikipedia

 

それから世界各地の自然放射線量の違いについて学びます。

普段暮らしていて線量が高いところがあるのを学びます。

日常生活における放射能。世界平均で見ると日本は自然放射線を被爆する量は少なく、日本平均で見ると日本は人工放射線の被曝量が

人工放射線の利用にはX線などの医療行為によるものもあります。

またその放射線の特性を利用して、医療器具などの滅菌処理にも使われています。

ガーゼマスクなど滅菌処理済みと書いてある商品を見かけたことがあられる方はどうやって袋の中の物を滅菌するのか不思議に思われた方もいらっしゃるでしょうが、実は放射線を当てて菌を殺してたんですね。

でもそれを公に書くとイメージダウンにつながりかねないので、表記していないみたいです。もちろんマスクを使ったから被爆するということはありません。

 

 ここで放射能放射線の違いについて考えてみましょう。

放射線とは粒子や電磁波が高いエネルギーを持った状態のものの総称です。

「高速の粒子」と「波長の短い電磁波」などが特徴です。

α線β線というものが代表ですね。

これらは電磁波としてはすべて同じ種類のものですが、波長が長いほうがエネルギーが高いといえます。

電磁波とは電波から赤外線、光、紫外線、X線、γ(ガンマ)線などの総称です。

電磁波 - Wikipedia

その一部であるX線など波長が長いものを放射線と呼びます。

ちなみに放射線であるX線の発見者はレントゲンですね。

 

そして放射能を持ち、放射線を出す物質を放射性物質と呼び、放射線の持つ能力を放射能といいます。言葉が似通っているので混同しがちなところです。

 

そんな前説が終わるといよいよ今日のメインイベントです。

本日の実験は自然放射線の軌跡を霧箱で可視化するというものでした。

ドライアイスエタノールを冷却した耐熱皿に黒い紙を敷いてラップをかけ、斜め上からライトで照らします。静電気を起こしたプラスチックの棒で皿の上を往復し、水蒸気を帯電させて観察すると自然放射線が流れ星のような軌跡となって目視することができます。

自然放射線が飛んでいるのをこんな簡単な材料で見られるのは感動モノでした。

放射線が飛んだ部分が空気の分子の状態を変えるのでこの現象が見られるそうです。 

 

それからよくあるキャンプ用ランタンのマントルを丸めて装置の上に静置すると、モワモワした放射線が出ている様子を可視化できました。

これまたびっくりです。

普段使っていたキャンプ用品に放射性物質が入っていたとは思いもしませんでした。



<参考リンク:よくあるマントルの画像>

 

この実験の種明かしをしていただいた時に39才で亡くなった自宅の庭に原子炉作った高校生を思い出しました。あの人は時計の発光塗料から放射性物質を集めてましたね。

 せっかくの授業なのに寝ている高校生もいたけど、こういうの普通科でどんどんやって欲しいですね。

 

それから放射線の特性をさらに解説していただきました。

放射線には電離・蛍光・透過作用があり、放射線の種類によって透過力に違いがあるという特性の説明です。

教室では放射性物質として花崗岩線量計の間に木の板などを入れて違いを比較していました。

α線β線は高速の粒子なので透過作用はありますが、紙や布でも割と防ぐことができます。ただここで気をつけないといけないのは力が弱いから紙で止めることができるわけではなく、人間の場合は表面の皮膚でそのエネルギーが全て吸収されてしまうので、皮膚へのダメージは甚大です。この被害を防ぐため放射線を浴びないように屋内に避難してくださいと言われるのです。

f:id:AspergerSyndrome:20170102201851p:plain

そして電磁波であるγ(ガンマ)線や、中性子など透過作用の強い放射線がありますが、中性子は水やコンクリートの壁でやっと止めることができます。だから原子力発電所はコンクリートの建屋で使用済み核燃料棒はプールに入れられているわけなんです。

放射線 - Wikipedia

 

それから放射性物質半減期の話になります。

サンプルで持ち込まれたトリウムで141億年です。

誰ももう生きていませんよね。

そんな感じで半減期が数日のものから何億年といった違いがあることを知るわけです。

そして単位の話です。

SV(シーベルト)は人体に与える影響の度合いを表し、Bq(ベクレル)は1秒間に放射線を出す回数を表します。Bqは残留放射能の検査で耳にする値ですね。

その他にも放射線を吸収した量を表すグレイといった値も説明されます。

 

そして授業も終盤になって、放射線による障害のお話しです。

強い放射線にさらされるとDNAが損傷し、身体的には細胞が再生できなくなる身体的な細胞死が待っています。そして遺伝的にはDNAの損傷で突然変異が発生します。

被爆して死ななくても遺伝に影響するレベルというのも分かってきていますが、日本の公衆被爆としては年間1mSVが基準となっています。

原発での仕事など職業人の被爆では100mSV/5年かつ50mSV/年という規定が設けられているそうです。

 

ちなみに健康被害を他の影響で見てみると以下のようになるという比較がなされていました。

100〜200mSVの被爆でがんに係るリスクは1.06倍。

タバコの喫煙で1.6倍。

野菜不足で1.06倍だそうです。

 

あと内部被曝外部被曝の違いの簡単な説明があり、外部被曝を避ける方法として、距離を取る、遮蔽する、時間を短くするという説明がありました。

つまり原子力発電所付近にいた場合は遠くに逃げる、シェルターなどに入る、事故現場にいる時間をできる限り短くするといった感じでしょうか?

また日常的にできることとしてはマスク、手洗い、うがい、フードや防護服を着て皮膚を露出しないという感じですね。

 

それから放射能漏れか放射線漏れかを区別してから避難しましょうという話にもなりました。

時間が足りなくて駆け足になってしまいましたが、放射線について科学的な考え方を学ぶ機会ってなかなか無いし、社会にでると考える機会って減ってくるので、こういう授業を全国の高校で必須にしてもらえるといいなあと感じました。

あと怪しい健康食品やマルチ商法に引っかかる人もこういう科学的な考察に普段から出会っていれば減らせるかもしれないなあなんて思ったりもしました。

 

 原発の周りの環境問題はクリアされているのか?人の力で制御出来ない原発は危ない。まだ放射性廃棄物を安全に処理する方法が確立されていない。だったら代替エネルギーはどうするのか?といったお話しは残念ながらそれだけで1時間は優に超えるので取り上げられていませんでしたが、そういった話題も課題研究や社会の科目や人権教育の中で取り上げられるようになればいいですね。

 

ちなみに講師によっては内容に問題があるそうで、以下のような新聞記事も見つけました。

文科省委託の放射線出前授業を中止 堺市の5小学校:朝日新聞デジタル

 

今日のブログは原発の是非を皆さんに問うのではなく、こういった教育がなされているということをお伝えしたく書きました。

 

原発賛成・反対という前に、放射線の特性などについて科学的に学べる機会は今後どんどん増えて欲しいと思っています。

 

そして再生可能エネルギーの利活用に興味を持つ子どもたちが増えてエネルギー問題が解決すればいいなと願って新年のごあいさつと代えさせていただきます。

 

皆さまにとってよい年となりますように祈念いたしております。

 

ASD